佐藤さんも私も実は元々は理論物理・計算物理の研究者です。私は前職で量子力学や量子コンピュータの研究に携わっていたのですが、深層学習の台頭でニューラルネットワークの研究が盛んになり、物理の理論研究に強い人材が求められていると聞いて興味を持ちました。世界的な動向を見ても、2024年はニューラルネットワーク関連の研究がノーベル物理学賞を受賞し、2025年は量子コンピュータ関連の研究が受賞しました。こうした流れを見ると、基礎研究と最先端の技術との距離がますます縮まっているのだなと感じています。
そして、私が取り組んでいる低ビットニューラルネットワークの研究もまた基礎研究と産業が近いところにある分野だと思います。また、低ビット化を極限まで突き詰めてバイナリー化ができれば、量子コンピュータの研究とも結びつき、新たな基礎研究と産業との接点が生まれるのではないかと密かに期待しています。
精度を保ちつつ演算量が減らせるということは、消費電力も減って、エッジ端末に高性能なAIが搭載できるようになるということです。実現すれば、車載システムに超高性能なAIを搭載したり、数ミリワットの消費電力しか許されない補聴器に翻訳AIが入ってきたり、IoTデバイスにも軽量で発熱しないAIが浸透し、従来とは次元の異なる高度な分散処理が可能になり、社会に大きなインパクトを与えるでしょう。
佐藤:権業さんが研究しているニューラルネットワークの軽量化、高速化は、アプリケーションを問いません。ここで大きな発明をして特許が取得できれば、世界中の多くの製品で利用されていくでしょう。
一番見たくないのは、それを他所の誰かが発明してしまい、私たちがそれにロイヤリティを支払う未来。それを避けるためには、世界中の人に使われることを理想として独自の技術を持つことです。デンソーが投資する意義は高いですし、それが理解されているので我々は自由度の高い活動ができています。