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Interview ラボの人々

事故ゼロを目指して人間の仕組みを科学し、
行動を変えてもらう

研究開発グループ
プリンシパルリサーチャ

2002年入社

吉澤 顕

研究開発グループ
リサーチャ

2001年入社

奥谷 知克

車が進歩しても結局、車を運転しているのは人間

吉澤

私がITLABに入社したきっかけは、2000年に自身がタクシーに轢かれる交通事故の被害者になったことです。「車はもっと安全にならないといけない」という思いで、ITLABへの入社を決めました。

たとえば最近の車には、ADASという前の車に追従して高速道路を走れる運転支援機能が実装されていますが、それで安全になるかといえば、実際はこれに運転を任せてドライバーの注意力が散漫になり、工事中の現場に突っ込んでしまうような事故が発生しています。そもそも運転支援機能は常に完璧に動作するとは限りません。また人間のほうが広く周囲を見て危険な状況を察知できる場合もあります。車が進歩しても結局、車を運転しているのは人間なので、事故ゼロのためには、いかに人間に安全運転をしてもらうか、人間の行動を安全な方向に変えていくかが重要です。
現在取り組んでいる研究テーマは主に2つあります。1つは、事故が多い一般道の交差点や一時停止での安全確認行動支援。もう一つが、高速道路などでの単調な走行による眠気や漫然運転の防止です。

どちらもセンシングだけでなく、ドライバーへの働きかけを行ってはじめて安全になります。こうしたドライバーと車のインタラクションは、人と車が一体となって事故ゼロを実現するためには非常に重要で、2010年代には車側がドライバーの運転にかかっている負荷状況をセンシングすることで、ドライバーと車載機器の情報量や出来る操作をコントロールする技術に取り組み、実装されました。

2025年度からは漫然運転防止に本格的に取り組んでいます。これからは、脇見や居眠りなど誰がみても不適切なドライバーの状態だけでなく、一見問題ないように見える、前を見て運転席に座っている状態での漫然運転への対応が重要になってくると思っています。なぜなら今後ADASが普及してくると、ドライバーの運転操作の一部を車が肩代わりすることで、ドライバーは運転しなくても前を見ていなくてはならない状態になり、傍目には安全な運転姿勢でも認知的には頭がぼーっとしている漫然状態に陥る傾向が懸念されるためです。そのためにはドライバーを見るだけでなく、車外や車両の状態も踏まえて判断することが必要になってきます。

奥谷

私は主に、高齢者が免許をとってから長年運転する中で身についてしまった悪い癖をなくすことに取り組んでいます。アプローチとしては心理学もあれば、社会インフラもあれば、生理学のアプローチもあります。

前職ではカーナビの開発に携わっており、ITLABに協力会社として入っていたのですが、当時の社長と意気投合して研究員として入社しました。カーナビは人間と車のインターフェースであり、UI設計や情報提示の方法やタイミングなどに行動科学の研究成果が詰まっています。その延長で、カーナビに位置機能と連動させた注意喚起機能をAIで実装しようという研究から始まって、脳科学や生理学などもつまみ食いしています。

千差万別な人間に行動変容を起こさせる難しさと面白さ

吉澤

例えば、“一時停止の標識では3秒停止”という道路交通法のルールは免許を持っている人なら誰でも知っているはずですが、長年運転しているうちに徐行して左右を確認しながら通過してしまうようになる人もいます。そんな習慣づいた人に、「一時停止しましょう」というアドバイスや警報を鳴らすことをしても、人によってはアドバイスをうるさいと思う人もいるだろうし、最初はアドバイスを聞いてくれた人も毎回言われると慣れてしまって聞き流すようになるかもしれません。ボールはニュートンの法則に従って毎回同じように転がりますが、人間は同じことを同じ時にやっても人によって反応が違うし、時間が経つとどんどん変わっていきます。100%の人に効果がある伝え方は難しいでしょう。そこが難しく、また面白いところでもありますが、「ちょっと今日はうっかりしていた」ということは誰にでもあるので、少なくともそういう瞬間をサポートできるだけでも事故は減る方向にいくと思っています。

奥谷

行動変容を起こすために人に働きかけることを考えがちですが、状況を勝手に人が解釈して行動を変えることもあります。例を挙げると、新型コロナウイルスの流行以来、コンビニやスーパーの床には足跡マークが描かれるようになりました。皆あれをソーシャルディスタンスと解釈して、レジに並ぶ時にはきちんと足跡の位置に立つように行動を自ら変え、今ではすっかり定着していますよね。そういう普遍的に使える手段を見つけるためには、心理学や生理学や社会学の分野の研究も必要です。何が必要なのかを自分で考えて、自由に研究できるのはITLABのいいところだと思います。

吉澤

こういった研究の難しさは、実際の車でやらないと本当の効果はわからないことです。商品化しないと効果がわからないのですが、効果がわからないと商品化ができないというジレンマがあります。今はドライビングシミュレータで仮説の効果を確かめつつ実車評価への準備を進めています。

究極は意識しなくても身体に安全運転行動を取らせたい

吉澤

人間の行動の大半は習慣で、いちいち「どう動くか」ということは考えていません。ドアがあれば手がノブを握るし、回す方向を考えなくても扉を開くことができます。いちいち意識して行動するのは疲れるので、楽に生きようと思うと必然的に習慣で動くことになります。安全運転も習慣づけが大事で、本人の意識に上らなくても身体に安全な行動を覚えさせることができればいい。それを煩わしくなく覚えさせるために、音声や画面などで情報を伝えるのではなく、機械が人間の身体を直接ある程度操作して、条件と行動を無意識で覚え込ませるような、そんなフィジカルなAIのアプローチも考えてみたいです。

奥谷

悪い癖、良い癖、って言っていますけれど、悪い癖をやめようとする人はいてもその後の良い癖を身につけるところまで真面目にやる人はあまりいません。行動変容を目指すなら、良い癖がきちんと身に付くところまで観測しないといけないと思っています。車のメーカーやサプライヤーは行動変容の技術の長期効果や弊害をきちんと評価するという動きができていないと思いますし、この技術を長く使える道具として我々研究者は評価していかなくてはいけないと思っています。

前職ではほとんどの研究者が長期計画に従って研究を進めていましたが、ITLABは臨機応変に自由にテーマや進め方を変えられます。大企業や大学と比べても柔軟性が高く、恵まれた研究環境だと思います。

吉澤

入社以来、交通事故ゼロを目指すという思いはぶれていません。そのための研究テーマを自由に設定して、働く時間も場所も、学会への参加も、束縛されずに自由に動けるのがITLABのいいところだと思います。

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