私がITLABに入社したきっかけは、2000年に自身がタクシーに轢かれる交通事故の被害者になったことです。「車はもっと安全にならないといけない」という思いで、ITLABへの入社を決めました。
たとえば最近の車には、ADASという前の車に追従して高速道路を走れる運転支援機能が実装されていますが、それで安全になるかといえば、実際はこれに運転を任せてドライバーの注意力が散漫になり、工事中の現場に突っ込んでしまうような事故が発生しています。そもそも運転支援機能は常に完璧に動作するとは限りません。また人間のほうが広く周囲を見て危険な状況を察知できる場合もあります。車が進歩しても結局、車を運転しているのは人間なので、事故ゼロのためには、いかに人間に安全運転をしてもらうか、人間の行動を安全な方向に変えていくかが重要です。
現在取り組んでいる研究テーマは主に2つあります。1つは、事故が多い一般道の交差点や一時停止での安全確認行動支援。もう一つが、高速道路などでの単調な走行による眠気や漫然運転の防止です。
どちらもセンシングだけでなく、ドライバーへの働きかけを行ってはじめて安全になります。こうしたドライバーと車のインタラクションは、人と車が一体となって事故ゼロを実現するためには非常に重要で、2010年代には車側がドライバーの運転にかかっている負荷状況をセンシングすることで、ドライバーと車載機器の情報量や出来る操作をコントロールする技術に取り組み、実装されました。
2025年度からは漫然運転防止に本格的に取り組んでいます。これからは、脇見や居眠りなど誰がみても不適切なドライバーの状態だけでなく、一見問題ないように見える、前を見て運転席に座っている状態での漫然運転への対応が重要になってくると思っています。なぜなら今後ADASが普及してくると、ドライバーの運転操作の一部を車が肩代わりすることで、ドライバーは運転しなくても前を見ていなくてはならない状態になり、傍目には安全な運転姿勢でも認知的には頭がぼーっとしている漫然状態に陥る傾向が懸念されるためです。そのためにはドライバーを見るだけでなく、車外や車両の状態も踏まえて判断することが必要になってきます。